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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)2760号 判決

本籍

東京都大田区大森山王二丁目二五八〇番地

住居

横浜市戸塚区戸塚町四丁目四一一六番地

無職

石川甫こと

石川成道

大正二年一月二五日生

右の者に対する窃盗被告事件について、昭和二六年六月九日東京高等裁判所の言渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

当審における未決勾留日数中六〇日を本刑に算入する。

理由

弁護人相原良市の上告趣意第一点について。

所論は第一審判決挙示の証拠である証人新井田忠八の証言は、被告人に反対尋問の機会を与えないでなされたものであるから、これを証拠とすることは憲法三七条二項に違反するというのである。

しかし憲法三七条二項の規定は、被告人に反対尋問の機会を与えないで作成された証拠書類を証拠とすることを絶対に禁止するものでないことは夙に当裁判所の判例とするところである。(昭和二三年(れ)第八三三号同二四年五月一八日大法廷判決、同二三年(れ)第一〇六九号同二五年九月二七日大法廷判決参照)しかも記録によれば所論証人の住居についての尋問は検察官並びに弁護人双方の申請にかかるものであり、その尋問期日も第一審公判の際告知されたに拘わらず、弁護人はその尋問に立会しない旨陳述したものであつて、(記録三一丁表)その後の公判期日において、右証人尋問調書が証拠調された際にも、右証人尋問の適否につき被告人及び弁護人から何等異議の申立もなく、また同証人を公判廷に喚問する申請もなかつたものである。(記録六八丁)かように第一審としては、少なくとも弁護人に対しては証人尋問に立会の機会を与え、被告人の審問権を実質的に害しない措置を講じたのに拘わらず、弁護人は、みずからその権利を抛棄し、被告人もその後何等の異議をさしはさまず同証人の公判廷喚問の申請もしなかつたのであるから、被告人が右証人尋問に立会せしめられなかつたことを以て憲法三七条二項に違反するということはできない。(昭和二四年(れ)第一八七三号同二五年三月一五日大法廷判決参照)論旨は理由がない。

同第二点及び第三点について。

所論は事実誤認と量刑不当の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人の上告趣意について。

所論は事実誤認の主張であつて刑訴四〇五条所定の上告理由に当らない。

なお本件につき刑訴四一一条を適用すべき事由も認められない。

よつて同四〇八条、一八一条一項、刑法二一条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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